2022.01~ 安藤優一郎氏の江戸の歳時記が更新されました。

安藤優一郎氏
日本の歴史学者。専門は日本近世史(都市史)。

2019年から「絆通信」に毎月コラムを配信。
2022年のコラムは江戸の果物①~⑥・江戸の菓子①~⑥です。

2022.01 江戸の果物①【栽培が盛んだった果物とは】

前回までは、江戸っ子が食卓にのぼる野菜を近郊農村に頼っていた様子を取り上げましたが、そうした事情は果物にもあてはまります。近郊農村では江戸向けの果物作りも盛んでしたが、今回からは6回にわたって、江戸の果物にまつわる話を御紹介します。

日本原産の果物としては梨・栗・柿などが挙げられますが、奈良時代に入ると、現在のものとは違うのですが、桃・蜜柑・金柑などが登場します。ただし、当時は貴族社会における贈答用の品でした。梨や柿などは別として、庶民には縁遠い高級品でした。

室町時代には、葡萄・西瓜などの栽培もはじまります。江戸時代に入ると、栽培が盛んだった果物も分かります。8代将軍吉宗の時代に作成された『諸国産物帳』によれば、柿、梨、桃、梅、苺の順で果物の栽培が盛んでした。

その後、宝暦4年(1754)に刊行された『日本山海名物図会』には、大和御所柿や紀州蜜柑がその地域の特産品として挙げられています。奈良では柿、和歌山では蜜柑が特産品だったのです。