社長の呟き 2021年12月号 「真の江戸っ子逝く」

はし休め

日本橋倶楽部会報12月号(第507号)

【 十二月号】

「真の江戸っ子逝く」

 

喪中案内が十一月から舞い込み始めると、師走に向かう淋しさを否応なく感じる。昨今は人生終活の一環として”年賀状じまい”のお知らせも混じり、さらに今年は環境問題に配慮した”賀状廃止通知”が目立つ。新型コロナウィルスは最期のお別れまでも奪い、”虚礼廃止ウィルス”に進化して、感染を拡大しているとは悲しい。そんな矢先の訃報は耳を疑うものであった。前理事長・細田安兵衛氏が十一月に逝かれた。江戸っ子とは三代以上続き、水道水の産湯につかい、江戸の真ん中に育ち、勇み肌、歯切れの良さ、さっぱりとした気風の者のこと。身内に江戸っ子は多くいたが、「ひ」と「し」の区別がつかず、けんか早いなど山の手に憧れを持っていた小欄は傍らでしょっちゅう恥ずかしいと思っていた。今でも”わざとらしい”江戸弁を耳にすると、小首をかしげてしまう。しかし日本橋ををこよなく愛し、老舗旦那にして遊び心を緩急に心得ながら、その人柄で周囲を魅了しながら昭和・平成・令和を歩まれた安兵衛氏ほど洒脱で上品な生粋の江戸っ子には巡り合えなかった。幼名は恕夫(ひろお)さん。意味は相手を思いやって許す。例年頂いていた賀状を手にすると不意に文字が滲む。小堺