ふるさと食文化の旅:香川

香川

香川県は四国地方の北東部に位置し、瀬戸内海に張り出した形になっている。海上には小豆島、塩飽諸島が浮かぶ。南部には讃岐山脈があり、その前面には讃岐平野が広がる。讃岐うどんで知られるように、うどんに適した良質の小麦粉の産地であり、讃岐うどんと同時に小豆島の手延べ素麺を生み出している。

江戸中期以降、坂出などの塩田や西讃岐の綿作、サトウキビの栽培・製糖が発達した。とくに、高級砂糖の和三盆は京都をはじめ、日本の和菓子には欠かせない砂糖である。小豆島はオリーブの栽培の盛んなところで、「小豆島オリーブオイル」のブランドで普及している。

郷土料理

魚

漁業の中心はブリ・マダイ・ヒラメ・カキなどの養殖に移っている。海面漁業ではカタクチイワシ・イカナゴ・シラス・カレイ・貝類が中心である。ブランド魚では「ひけたブリ」「白方カキ」がある。「ひけたブリ」は全身トロといわれるほど脂がのっている。「白方カキ」は柔らかく食べやすいのが特徴である。

肉

畜産関係では、「讃岐牛」「讃岐夢豚」「讃岐コーチン」(鶏)を「讃岐三畜」と呼んでいる。「讃岐牛」は、瀬戸内の暖かな風土に育まれた香川黒毛和種である。美しい霜降り牛肉で、とろけるような食感があり、うま味とコクのある肉質である。京阪神では高い評価をうけている。「讃岐夢豚」はイギリスのバークシャー種から開発した豚肉である。塩麹に漬け込んだものはうま味も甘味もあり、人気の豚肉である。「讃岐コーチン」は、江戸時代に「岡山エーコク」として導入されたものが、「香川コーチン」を経て「讃岐コーチン」に改良された。低脂肪・低カロリーの肉質といわれている。

野菜

伝統野菜の「金時ニンジン」は、大阪原産で明治時代に栽培が始まった。現在では観音寺市や坂出市など海岸沿いで栽培している。関西地方では正月のお雑煮や煮物に使う。高菜の一種の「万葉」は冬の野菜として利用される。葉をもぎとっても次々と新しい葉が生えるので、万葉の名がつけられている。「三豊ナス」は、巾着のようなかわいらしいナスで、昭和初期に朝鮮半島に出向いた三豊(現在・三豊市)の農家が、この種を持ち帰ったものである。味噌田楽・煮物・漬物に向いている。「香川本鷹」は、少雨多照という瀬戸内の豊かな気候風土が生んだトウガラシ。大ぶりのトウガラシで、強い辛味のなかに豊かな風味とかすかな甘味がある。

伝統料理

「讃岐うどん」は香川スタイルのファストフード

香川県の代表的な伝統料理はうどんである。讃岐平野は、うどんの原料となる小麦の栽培に適していて、うどんを作るのに適した良質の小麦が収穫されていた。
「讃岐うどん」ほど市民生活に密着している食も珍しい。大晦日も正月もうどんを食べるという地域もある。香川県内のうどん店は、ほとんどが立ち食いでセルフサービスのスタイルである。関東で営業している「讃岐うどん」の店もセルフサービスで、チェーン店が増えている。すし、天ぷらなどが江戸時代のファストフードであるなら、「讃岐うどん」は香川のうどんバージョンのファストフードともいわれている。

行事食

小豆島に残る茶粥

香川県に属する小豆島の内海地区では、人の死後、仕上げ、二七日、三七日と、49日までの7日ごとに近所の人が集まって念仏をあげ、コメの中に炒った大豆を入れて作る「奈良茶粥」を食べる。また、小豆島の伊喜末八幡の秋祭りにはブンドウマメを炊き込んだ粥を神棚に供えるしきたりが残っている。

瀬戸内海の佐柳・志志・岩黒の島々では、茶粥に高知県大豊町で作られたかたまり茶を使う。志志島ではこの茶を「讃岐の馬のクソ」といい、年寄りのいる家では四季を問わず茶粥を食べている。

食のこぼれ話

日本産オリーブ発祥の地

小豆島はオリーブの産地で知られている。地中海地方で生育している常緑高木のオリーブは、文久年間(1861~64)に医師・林洞海によって気候温暖な横須賀の地に植栽された。その後研究機関がオリーブの生育の適地を調べ、瀬戸内海の小豆島が地中海の気候に近いことから、明治41年(1908)に栽培試験地に指定され、現在に至っている。