ふるさと食文化の旅:岩手

岩手

岩手県は奥羽山脈の東に位置し、東部には北上高地が広がり、これと奥羽山脈に挟まれる形で北上川沿いに盆地が南北に流れている。太平洋沿いの長い海岸線は出入りの激しいリアス式海岸であることは知られている。しかし2011年3月11日の東日本大震災は、リアス式海岸に押し寄せた高い津波で沿岸の市町村や沿岸に構えていた数多くの漁港を壊滅状態に至らしめた。復興・復旧に取り掛かっているものの遅々としてその兆しは見えず、2011年の魚介類の水揚げ量は何時もの3分の1程度となっている。

郷土料理

魚

震災前は、リアス式海岸を利用したアワビ・ウニ・コンブ・ワカメ・ホヤなどの養殖が盛んであった。現在は、これらの養殖の復活が見られている。三陸沖は寒流と暖流が交わるので好漁場となっている。

秋から冬に宮古湾に注ぐ河川に近づくオスのサケは「鼻曲がり」といわれている。新鮮なサケのエラを細かくたたいた「南部サケのたたき」、サケの身肉・大根・麹・味噌・砂糖・酒・唐辛子で調味した「サケの紅葉漬け」がある。

肉

牛肉では「いわて短角牛」、鶏では「南部かしわ」が有名なブランドである。「いわて短角牛」は、岩手県の南部で飼育されている牛で、1957年に和牛として認められた品種である。霜降りの部分が少ないため、脂肪によるうま味は少ないが、ほとんどの牛肉料理に利用されている。南部かしわは二戸地区の銘柄地鶏で数は少ない。岩手県南部では鍋・焼き鳥・ソテーなどで利用されている。

野菜

岩手県は江戸時代からアワ・ヒエ・キビなどの雑穀類の栽培が導入された。特産品に遠野市の強い辛味の「暮坪カブ」ほのかな甘味と粘りのある「宮守ワサビ」、「二子サトイモ」「曲がりネギ」がある。

ソバの食べ方には宮古名物の「腹子そば」(ソバの上に鼻曲がりサケの筋子を入れたもの)、遠野名物の「ひっこそば(ひすこそばともいう)」(4段がさねの丸形の弁当箱に、ソバ・ネギ・ワサビ・海苔の薬味をのせたもの)、朱塗りの椀に一口ずつ盛ったそばの「わんこそば」がある。

伝統料理

そば料理は生活の知恵から

「わんこそば」は「わっこそば」ともいわれ、斉藤市太郎という人が考案したという説。南部の藩主・南部利直が花巻城で椀に盛ったソバを食べたのが始まりという説もある。

だし汁に卵白・ナガイモ・シイタケ・タケノコを入れた醤油味のぬっぺい汁(のっぺい汁)、イカの腹腔の中に脚を入れて味噌を塗って焼いた「イカのぽっぽ焼き」などがある。

行事食

正月は多様な食材を使った料理を用意

三陸地方の正月に用意する豪華な雑煮に、「くるみ雑煮」がある。汁の具はニンジン・ゴボウ・ダイコン・セリ・凍り豆腐・はらこ(サケの筋子)・アワビなどで醤油味に仕立てたものである。これに焼いた切り餅を入れる。クルミは砂糖を加えてよくすり、雑煮の汁でとろりとなるまでのばしてタレを作る。雑煮の餅に、このタレをつけて食べる。

食のこぼれ話

岩手県にはそば料理が多い

岩手県は、小麦粉やコメの栽培の難しい地質らしく、ソバやその他の雑穀の栽培の盛んなところである。雑穀の代表であるソバの食べ方が多い。

有名なわんこ(椀子)そば、サケの卵巣をのせた「腹子そば」、四段重ねの丸形の曲げ物(弁当箱)にそば・わさび・海苔をのせた「ひっこそば」(「ひっこ」とは「櫃」に「こ」をつけたもの)がある。

三陸の久慈地方では、春に淡水産のマツモ(キンギョ草ともいわれる)がとれる。この乾燥品を汁そばにのせた「まつもそば」がある。

遠野地方では、捏ねたそばの生地を、柳の葉のように形どり、酢味噌をつけて食べるか、味噌汁にいれた「柳葉そば」がある。